大鰐温泉郷

湯治場

大鰐温泉郷について

湯治場の街

大鰐は古い湯治の街だ。農閑期になれば、津軽中からこの街へ湯治に集まるという一時代があった。米や林檎を商う人びとも、この大鰐に逗留したという。鉄路が輸送の主役だった時代、大鰐は津軽の奥座敷だった。そういう賑やかな時代の情緒が、湯煙とともにこの街を覆っている。

懐かしさの溢れる共同浴場

こころみに、ぶらぶらとこの湯の街を歩いてみる。いたるところに共同浴場があるのに気がつくだろう。その数たるや8つ。これだけの数の共同浴場を持つ温泉街も、そうざらにあるものではない。
古びた三階建てのビルの一階に、「若松会館」という名前の共同浴場がある。これがそうだと教えられなければ、こんなところに温泉があろうとは気がつかないかもしれない。引き戸を開ければ、なかは一昔前の銭湯のような雰囲気。大きなタイルの浴槽に、ただひたすら熱い湯が注いでいる。余計なものは何もない。長いあいだ人びとに愛されてきた湯の温もりが、この浴場を充たしている。
橋を渡った平川の対岸の蔵館地区にも、3つの共同浴場がある。「大湯会館」に入る。外観は昔の映画館のような、モダンな雰囲気。中の番台が、切符売り場のようにも見える。タイル張りの浴場には、まるい湯船があって、とうとうと湯が流れていた。町内の人が湯浴みに来るものと見えて、「産湯を浸かったときからこの湯だもの、肌に馴染んで医者知らずだ」と口をそろえて笑う。
大鰐の温泉は、熱い。充分掛け湯をして入るのがよい。それでなくとも湯が熱いのに、塩分を含むものだから、湯上りはどっと汗が噴出す。湯冷めのしない「熱の湯」だ。共同浴場は、このほかに6つ。さすがにすべてを梯子するのは至難の業だが、湯の街を散歩がてらふらっと立ち寄るのが面白い。湯上りに、地元の水で仕込んだ地ビールを呑んだ。酵母の活きている濃いビールが、大鰐の濃いお湯に浸かった後の喉を潤す。

温泉が育む食べ物

ところで、ここ大鰐では、温泉は人が温まるためにだけではなく、食べ物を作るのにも使われている。そのひとつは、温泉モヤシ。温泉の権利を持つ農家が、冬場に、温泉の熱を利用して作る。江戸時代から続く特産品だ。水耕の緑豆モヤシに比べると、土のうえで栽培した温泉モヤシは、土の匂いがして、しゃきしゃきした歯ごたえがある。食べなれないと癖が強く感じるかもしれないが、その個性がやみつきになるだろう。お浸しや和え物、炒め物、味噌汁などにして食べる。
もうひとつは味噌。創業明治43年(1910年)のマルシチ。当時マルシチの金看板を背負うことがたいへんな名誉だったという。津軽味噌を代表する蔵のひとつで現在も津軽一円を中心に首都圏まで販売されている。実は、この味噌蔵には、温泉が引いてある。温泉の熱で味噌を醗酵させるのだ。温泉の配管が、味噌樽を温める。これで、味噌は深く醗酵する。醗酵して、味噌は酸味や旨味など、さまざまな味を醸す。温泉の熱で味噌の醗酵を助けるという造り方は、国内でほかには例がない。

心ふれ合う温泉客舎

布団や炊事道具と食糧を持ち込んで、自炊しながら長逗留する湯治宿を、津軽では「温泉客舎」と呼ぶ。「温泉客舎」では、ごく自然に客どうしの交流が生まれる。会話を交わし、食べ物を交換し合い、果ては宴会を始めることも。湯治に来た者どうし、心ふれあい、ひとつの共同体になる。
もし「温泉客舎」に泊まるのなら、温泉モヤシとマルシチ味噌で、モヤシの味噌汁を作るのも良いだろう。春には山菜、秋にはきのこ、そして山の畑で穫れた美味しい林檎がある。地鶏なら、大鰐のシャモロックが美味い。地元の湯治客といっしょなら、津軽の家庭の郷土料理も教えてもらえるだろう。地元の人と交流できること。普通の旅館や民宿では、体験できないことだ。

阿闍羅千坊

大鰐の温泉の歴史は八百年。湯が見出されたころ、いまはスキー場となっている阿闍羅山(アジャラヤマ)は修験の霊場で、千を超える坊があった。阿闍羅千坊と言う。この山にあったと伝えられる国分寺「大安国寺」の本尊が、蔵館地区の大円寺(真言宗)の木造阿弥陀如来座像で、国の重要文化財に指定されている。この仏像は平安時代後期から鎌倉時代前半にかけて造られたと推定され、平泉の様式を持ち、ヒバで造られているところから、この地で彫られたものだと思われる。いずれにせよ、大鰐は中世の「奥の大道」の街であった。ここに文物が集まって交換された。市があったと思われる。温泉も、こういう賑わいの歴史とともに歩んできた。

大鰐温泉郷の基本情報

施設名各施設一覧
泉質ナトリウム・カルシウム・塩化物・硫酸塩泉
効能リウマチ・神経痛・筋肉痛・腰痛・五十肩・打ち身・痔疾・冷え性・消化器疾患他
交通JR奥羽本線大鰐温泉駅下車

※掲載情報は平成20年2月時点のものです。各施設の営業日・営業時間・料金・条件等は事前にご確認ください

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